個人事業主のiDeCoとNISA、どっちが先?業務委託・自営セラピストの退職金づくりの順番
対象:2026年10月時点の制度(iDeCoは2026年12月分からの改正後の上限も併記)
個人事業主のiDeCo(イデコ)は、掛金がすべて所得から差し引けるうえ、会社員より多く積み立てられます。それでも「最初の1つ」にするのが正解とは限りません。原則60歳まで引き出せないからです。
先に結論を書きます。収入がまだ読めないうちは、いつでも引き出せて積立額も変えやすいNISAから少額で始める。収入が安定して税金の負担が気になってきたら、小規模企業共済、iDeCoの順に足していく。iDeCoとNISAの使い分けを決めるのは「どれが一番得か」ではなく「いまの自分の収入がどれだけ安定しているか」です。
この記事では、業務委託や自営サロンで働くセラピストに向けて、3つの制度の違いと、段階ごとの選び方をまとめます。たたら自身はいまNISAだけを使っているので、その理由と積立額の動かし方も書きます。新NISAの仕組みや始め方もこの記事でまとめて説明します。
個人事業主には退職金も厚生年金もない
会社員は、国民年金に上乗せして厚生年金に入っています。勤め先によっては退職金も出ます。
個人事業主は国民年金だけです。年金の区分でいうと「第1号被保険者」にあたります。業務委託で働くセラピストも、雇われているわけではないので、ほかの勤め先で社会保険に入っていなければ同じ扱いです。会社員と比べると、老後に受け取れる公的年金は少なく、退職金もありません。
足りない分を自分で用意するための制度は、主に次の3つです。
小規模企業共済は、国が用意している個人事業主の退職金制度です。中小機構(中小企業基盤整備機構)が運営しています。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で掛金を出して運用する年金です。国民年金基金連合会が実施しています。
NISAは、投資で出た利益に税金がかからない口座です。金融庁の制度で、証券会社や銀行で開きます。
このほかに国民年金基金や付加年金もありますが、これらは公的年金の上乗せなので、国保・年金の記事で扱います。
個人事業主のiDeCo・NISA・小規模企業共済の違い
| 小規模企業共済 | iDeCo | NISA | |
|---|---|---|---|
| 掛金 | 月1,000〜70,000円(500円刻み) | 月5,000円から。上限は月6.8万円(2026年12月分から7.5万円) | 年360万円まで(生涯1,800万円) |
| 掛金の所得控除 | 全額 | 全額 | なし |
| 増えた分の税金 | 共済金の受け取り時に課税(一括は退職所得) | 運用中は非課税。受け取り時に課税(一括は退職所得) | かからない |
| 引き出せる時期 | 廃業時、65歳以上など。任意解約もできるが、納付20年未満だと元本割れ | 原則60歳まで引き出せない | いつでも |
| 掛金の変更 | 増額・減額ともできる(減らした分は受け取りで不利になることがある) | 年1回 | いつでも(証券会社の設定で) |
| 運用 | 自分では運用しない | 自分で商品を選ぶ | 自分で商品を選ぶ |
iDeCoの上限は、国民年金基金や付加保険料と合わせた金額です。
この表で大事なのは3点です。
1つ目は、所得控除があるのは共済とiDeCoだけということです。所得控除とは、税金を計算するときの所得から差し引ける金額のことです。掛金の分だけ所得税と住民税が下がります。NISAにはこれがありません。
2つ目は、引き出しやすさが逆の順番になっていることです。NISAはいつでも売って現金にできます。共済は廃業すれば受け取れますし、納めた掛金に応じて借りられる制度(貸付)もあります。iDeCoは原則60歳まで動かせません。
3つ目は、掛金の変えやすさです。収入が月によって大きく変わる働き方では、NISAの身軽さが効きます。
iDeCoと共済の節税額は「所得の大きさ」で変わる
所得控除で下がる税金は、ざっくり「掛金×(所得税の税率+住民税の10%)」です。所得税の税率は所得が大きいほど上がります。
たとえば課税所得が195万円以下なら、所得税の税率は5%です。この場合、月1万円(年12万円)を共済かiDeCoに掛けると、下がる税金は年およそ1万8,000円です(復興特別所得税は除いた概算)。
同じ月1万円でも、税率が20%の人なら年およそ3万6,000円下がります。開業したばかりで所得が少ないうちは、所得控除の効き目は小さいということです。「節税になるから」だけで、60歳まで引き出せないお金を増やす理由にはなりにくい時期があります。
個人事業主のiDeCoの上限は2026年12月分から月7.5万円
2025年の年金制度改正で、iDeCoの上限が引き上げられます。個人事業主(第1号被保険者)の上限は、月6.8万円から月7.5万円になります。適用は2026年12月分の掛金(2027年1月の引き落とし分)からです。
あわせて、加入できる年齢も70歳未満まで広がります。これまでiDeCoに入っていた人などが対象です。
ただし、上限が上がっても、出せる余裕がなければ使えません。上限は「いつか出せるようになったときの天井が高くなった」と受け止めておけば十分です。
なお、国民年金保険料の免除や猶予を受けている人は、iDeCoに加入できません(一部の例外を除く)。開業直後に保険料の免除を申請している人は注意してください。
iDeCoとNISAのどれから始めるか:収入の段階で考える
制度としての損得より、自分の収入がどの段階にあるかで考えると迷いにくくなります。
段階1:開業直後や、収入が月によって大きく変わる時期
まず、生活費の数か月分を手元の預金に置きます。そのうえで、余った分をNISAで少額から積み立てます。
この時期にNISAが向いているのは、積立額を下げたり止めたりしやすく、急にお金が必要になったら売れるからです。所得控除がないのは弱みですが、所得が少ないうちは控除の効き目も小さいので、差は大きくありません。
段階2:収入が安定し、確定申告で税金の重さを感じ始めた時期
ここで小規模企業共済を少額から足すのが現実的です。掛金は全額が所得控除になり、廃業したときにも受け取れます。いざというときに借りる制度もあるので、iDeCoよりは逃げ道があります。
注意点は、任意解約すると納付期間20年未満では元本割れすることです。任意解約で受け取るお金は、退職所得ではなく一時所得として扱われます(65歳未満の場合)。「途中でやめない金額」から始め、収入が伸びたら増額します。
共済の掛金は、確定申告で「小規模企業共済等掛金控除」として差し引きます。業務委託の申告の流れは、業務委託の確定申告(源泉徴収なしの場合)にまとめています。
段階3:60歳まで使わないと言い切れるお金が出てきた時期
ここでiDeCoを足します。iDeCoの掛金も、共済と同じ「小規模企業共済等掛金控除」の対象です。
iDeCoには、加入時に2,829円、掛金を出している間は毎月171円以上の手数料がかかります(金融機関によって上乗せがある場合あり)。掛金が少ないと、手数料の割合が大きくなります。
受け取り方で税金が変わることも覚えておく
共済もiDeCoも、一括で受け取ると「退職所得」として扱われます。退職所得には大きな控除(退職所得控除)がありますが、受け取る年が近いと、その控除が調整されて小さくなることがあります。
iDeCoの一時金を先に受け取り、あとで退職金などを受け取る場合、この調整の対象になる期間が広がりました。2026年1月以降に受け取るiDeCoの一時金から、前年以前4年以内が9年以内になっています。受け取りは何十年も先の話なので、いまは「受け取る順番と時期で税金が変わる」とだけ覚えておけば十分です。実際に受け取る時期が近づいたら、税務署か税理士に確認してください。
実例:開業で積立を月1万円に下げ、黒字化してから月3万円に戻した
ここからは、たたら自身の話です。
いま使っているのはNISAだけです。小規模企業共済とiDeCoには、まだ入っていません。理由は単純で、まだそこまで回せるほど稼いでいないからです。
NISAを始めたのは、大学院生のころです。クリニックでアルバイトをしていた時期で、最初の口座は楽天証券で開きました。申し込んでから積立が始まるまでは、すぐでした。いまのNISA口座はSBI証券です。
積立額は固定していません。サロンを開業した時期に、月1万円に下げました。開業すると、しばらくは売上が読めないからです。その後、サロンの月の売上が損益分岐点(売上と経費が釣り合う金額)を超えてから、月3万円に戻しました。
暴落で評価額がマイナスになったことは、何度かあります。それでも売っていません。積立は、値動きを見て売り買いするやり方ではないからです。お金が必要になるまでは売らずに置いておく、というだけです。
共済やiDeCoをいつ始めるかは、まだ決めていません。
新NISAの仕組み
2024年から始まった今のNISA(新NISA)は、次のような制度です。
| 項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
|---|---|---|
| 年間の上限 | 120万円 | 240万円 |
| 買えるもの | 金融庁の基準を満たした投資信託など | 上場株式・投資信託など(一部除く) |
| 買い方 | 積立のみ | 積立・一括のどちらも |
2つの枠は併用でき、合わせて年360万円まで買えます。生涯で非課税にできるのは、買った金額で1,800万円まで(うち成長投資枠は1,200万円まで)です。非課税で持っていられる期間に期限はありません。売ると、売った分の枠が翌年以降に戻ります。
月1万〜3万円の積立なら、使うのはつみたて投資枠だけで足ります。年360万円を埋める必要はありません。
注意点は2つです。元本の保証はないので、値下がりすれば元本を割ります。また、NISA口座で出た損失は、ほかの口座の利益と相殺できません。
NISAの始め方:口座開設から積立設定まで
NISAは、ネット証券ならスマートフォンで申し込めます。流れは次のとおりです。
- 証券会社を選ぶ。NISA口座は1人1口座で、金融機関の変更は年1回までです。その年にすでにNISAで買っていると、変更できるのは翌年からになります。変えても、それまでに買った分は元の口座に残ります。たたらも楽天証券からSBI証券に移しましたが、移すのは「これから買う分の口座」だと考えておくと分かりやすいです。
- 口座開設を申し込む。マイナンバーカードがあれば、本人確認の書類を兼ねられます。
- 証券会社が税務署に確認する。二重に口座を持っていないかの確認です。
- つみたて投資枠で積立を設定する。積立額は後から変えられます。
たたらがいまNISAで使っている証券会社はこちらです。
よくある質問
個人事業主のiDeCoのデメリットは?
大きいのは3つです。原則60歳まで引き出せないこと、口座の手数料が毎月かかること、運用の結果によっては元本を割ることです。また、受け取るときには税金がかかります(控除が大きいので、多くの場合は軽くすみます)。収入が不安定なうちに大きな額を掛けると、手元のお金が足りなくなるおそれがあります。
個人事業主はiDeCoにいくら掛ければいい?
上限から考えるより、「60歳まで使わないと言い切れる金額」から考えるほうが安全です。最低は月5,000円で、1,000円単位で決められます。掛金の変更は年1回できるので、少なめに始めて、収入が伸びたら増やせます。
所得が少なくても、iDeCoや共済に入る意味はある?
あります。ただし、効き目は小さめです。所得税の税率が低いと、掛金で下がる税金も少なくなります。課税所得がほとんどない年は、所得控除の恩恵はほぼありません。その場合は、引き出せるNISAや預金を優先するほうが、急な出費に困りません。
業務委託のセラピストでも、小規模企業共済に入れる?
個人事業主として事業をしていれば、対象になります。条件は、常時使用する従業員の数です。サービス業なら5人以下で、ひとりで働くセラピストなら満たします。ただし、勤め先から給料をもらいながら副業で業務委託をしている場合は、加入できるかの判定が別に必要です。申し込む前に中小機構へ確認してください。
iDeCoや共済の掛金は、経費にできる?
できません。経費ではなく、確定申告で所得から差し引く「所得控除」です。事業用の口座から払った場合も、帳簿では経費にせず「事業主貸」(事業のお金を個人のために使ったときの科目)で記帳し、申告書の控除の欄に書きます。
NISAとiDeCoと共済は、全部いっしょに使える?
使えます。3つは別々の制度なので、併用に制限はありません。ただし、iDeCoの上限は国民年金基金や付加保険料と合わせた金額です。
まとめ
個人事業主には退職金も厚生年金もないので、老後のお金は自分で作る必要があります。そのための制度は、小規模企業共済、iDeCo、NISAの3つです。
節税の効き目で並べると共済とiDeCoが強く、引き出しやすさで並べるとNISAが強い。どちらを優先するかは、収入の安定度で決めます。収入が読めないうちはNISAを少額で。安定してきたら共済を足し、60歳まで使わないお金が出てきたらiDeCoを足す。この順番なら、途中で困って解約する事態を避けやすくなります。
iDeCoの上限は2026年12月分から月7.5万円に上がります。いま出せる額が少なくても、収入が伸びたときに使える枠が広がったと考えておけば十分です。
参考
厚生労働省「2025年の制度改正(iDeCoの拠出限度額・加入可能年齢の引き上げ)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2025kaisei.html
厚生労働省「iDeCoがパワーアップします!」 https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001620594.pdf
iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会) https://www.ideco-koushiki.jp/
中小機構 J-Net21「小規模企業共済制度」 https://j-net21.smrj.go.jp/support/publicsupport/2018120401.html
金融庁「NISAを知る」 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/index.html
国税庁「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
国税庁「NISA口座の新規開設又は変更に関する手続等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/nisa/tetsuzuki.htm
山田&パートナーズ「退職所得控除の調整規定等の見直し(2025年度税制改正解説)」 https://www.yamada-partners.jp/reform/r7/k08-review-of-adjustment-provisions-for-retirement-income-deduction